Vol.19 林 信行さん「心の豊かさと安らぎを取り戻せる場所」

「心の豊かさと安らぎを取り戻せる場所」

ITジャーナリスト・コンサルタント 林信行

 東京に住む私にとってアルテピアッツァ美唄は決して近い場所ではない。北海道は講演などの仕事で年に2~3回訪問するものの、日帰りになることもある。
 用事を済ますと札幌駅入り口の彫刻「妙夢」の前まで行き時間を確認する。帰りの飛行機まで残り4時間を切っていたら荷物は札幌駅のロッカーに預け近場を散策。4時間以上あれば、荷物は美唄駅のロッカーに預けアルテピアッツァを目指す。
 美唄駅からの車が川を渡り、ピアッツァ入り口の丘や黒い彫刻「帰門」が見えるあたりからワクワクし始めるが、車を降りる頃には、それが何だか安らかな気持ちに変わる。
 体育館を覗いた後は、目の前のベンチで写真を撮り、戻った歓びをツイッターにつぶやく、それからゆっくりと旧校舎を目指す。その後、時間があれば、アルテの森を散策、なければカフェを目指して一息をつく。
 この場所を最初に知ったのはNHKの番組の深夜の再放送だった。教室に飾られた彫刻と太陽が反射する水の広場で遊ぶ子供達の情景が鮮烈だったが、しばらく忘れていた。
 2010年、札幌での仕事の後、時間が余り、ツイッターで、誰とはなく私にお勧めの場所がないか聞いたところ数名が「美唄!」と答えてくれた。検索し、あのテレビで見た情景が蘇った。その年の訪問は叶わなかったが翌11年7月に訪問し一目惚れ。2日後に2度目の訪問を果たした(初訪問で安田侃さんに会い、話をすることができた)。
 以来、私もツイッターで、誰かが札幌近郊の行き場所を探しているのを見かけると写真付きのつぶやきでアルテピアッツァを勧め、既に知り合いだけでも3人に感謝された。同じものを喜べることで、その人達との心の距離が近まった気がして、それがまた嬉しい。
 アルテピアッツァ美唄には「美しさ」と共に「タイムレス」な魅力がある。
 私が住んでいる東京や、仕事をしているITの世界は、時間はただ一方向、前に進み続けるだけの忙しない世界だが、アルテピアッツァはかつての炭住街という過去と、四季の風景や入園と卒園を繰り返す園児といった巡る時間、そして時間をかけ少しずつ彫刻が増えていくというゆったりとした進化といった具合にいくつかの時間軸が交差している。
 だからなのか、ここにいると、時を忘れ、素直に自分に向き合い楽しむことができる。
 嬉しいことに安田さんの彫刻は、東京でも六本木や目黒など、私に馴染み深い場所に置かれている。それらを見ると私の心は時空を超えアルテピアッツァに飛ぶ。私が東京で自分を見失い、時間に追われている間も、美唄にはあの素敵な場所があり、そこであの素敵な人々が働き、豊かな時間を過ごしている人々がいる。そう考えるだけで、自分も幸せな気持ちになれる。年2回、わずか30分の訪問になっても美唄を訪れるのは、それを自分の目で直に確認することで、再び安心感が補強されるからかもしれない。