Vol.03 森田 肇さん「心のふるさと「アルテピアッツァ美唄」への思い」

心のふるさと「アルテピアッツァ美唄」への思い

特定非営利活動法人アルテピアッツァびばい 副理事長
美唄労災病院 副院長 森田肇

 アルテピアッツァに来たことのある人は、ここに来ると懐かしさや心の安らぎを感じるといいます。ある年齢以上の人たちにとっては、日本がまだ裕福ではなかったかもしれないけれど、活力に満ちあふれていたあの時代、ぼうず頭やおかっぱ頭の自分たちが元気に走り回っていたあの頃にタイムスリップしたような感覚にとらわれる場所だからなのかもしれません。
 この場所にぽつんという感じでさりげなく置かれている彫刻や、強い存在感を感じさせるどっしりとした作品は、まわりの木々や水、光、風などこれらを取り巻くさまざまなものと一体になって私たちになにかを語りかけてきます。そして季節や天気、時刻とともに、アルテピアッツァはその表情を刻々と変えていきます。緑の絨毯、色彩豊かな花々、雲ひとつない真っ青な空、まぶしいほどの白い大理石、流れる水の音、赤い屋根の木造校舎、まわりの山の紅葉、一面の雪原とそこに伸びる彫刻の影、低く垂れ下がった雲、しとしと降る雨、これらのひとつひとつがこの空間を引き立てる隠し味となって、私たちの心に心地よい安らぎをもたらしてくれるのでしょう。そしてここを訪れる人たち自身もまたアルテピアッツァの持つこの独特の雰囲気を形作る大切な要素になっていると私は思います。
 アルテピアッツァでは、文字通り「芸術の広場」として、安田侃さんの作品群に囲まれたこの場所で、多くの演奏会や展覧会が開催されてきました。これらから感じることですが、ここでは芸術を発信する側の人たちにも、それを受け取る側にも、この空間の持つ不思議なパワーが作用して、ほかの場所ではできない、ひと味違ったなにかが造り出されているような気がしてなりません。それはおそらく、安田さんの分身ともいえるこれらの作品とその周囲の環境が織りなす空気のなせる技なのでしょう。
 「ふるさと」への思いは人によってそれぞれ異なるものです。「ふるさとは遠くにありて思うもの」から始まる室生犀星の詩がありますが、人間は生まれ育った場所から離れてはじめて、そのかけがえのなさが分かるものなのかもしれません。アルテピアッツァ美唄はそんなかけがえのない「ふるさと」のイメージをみごとに具現している場所といえます。安田さんの作品は国内外いろいろな所で観ることができますが、これらは時空を越えてアルテピアッツァにつながっているような思いにとらわれることがあります。これらの彫刻に触れた時、アルテピアッツァをイメージしてみてください。この場所を訪れたことのある人ならきっと、心安らぐあの空間が脳裏に浮かび上がってくることでしょう。そして、心や体に疲れがたまったら、ふらっとアルテに足を運んでください。帰門をくぐれば、そこにはいつでも皆さんを暖かく迎えてくれる場所、「心のふるさと」があるはずです。