Vol.46 村田 利文「アートは時の変わり」
「アートは時の変わり」
ムラタオフィス代表 村田 利文
○今回はインタビュー形式で村田利文さんにお話を伺いました。
「こころを彫る授業」にお越しいただいてありがとうございます。
2007年5月「こころを彫る授業」スタートからすぐに参加してくださっていますね。
2007年5月「こころを彫る授業」スタートからすぐに参加してくださっていますね。
以前から安田先生やイサムノグチさんの生き方と作品を拝見していて、ずっと彫刻をやってみたいと思っていたところ、「こころを彫る授業」が始まったので通うようになりました。安田先生ときちんとお話できたのはそれが最初です。
以来20年近く通われてますが、村田さんにとってアルテピアッツァ美唄とは?
心を休めるというか、心を広げるための場所です。安田先生の作品は細部まで研ぎ澄まされているので、見ると心地よい緊張感も感じますね。夜中になると、誰も見ていない間に、ここでとんでもないことが起こるような印象もあります。何かが宿っているような。安田先生が「彫刻は表を見れば裏が想像できる。裏を見て想像のとおりなのがいい彫刻だ」とおっしゃったのですが、これは深く納得しました。先生の彫刻は確かにそうなっています。でも、分かったからと言ってそんな風に作れるものではないですが。
札幌の「モエレ沼公園」を設計されたイサム・ノグチさんとも交流があったそうですね。
お会いしたのは4、5回です。ITベンチャーのBUGの役員だったときに新社屋の設計をアーキテクトファイブに依頼したんですが、代表の川村さんは丹下健三さんのもとで草月会館を担当したときからイサムさんとご親交があって、イサムさんをBUGの服部社長に紹介してくださいました。その後、服部さんが公園作りを計画していた札幌市にイサムさんを紹介したんです。モエレ沼を見たイサムさんが、そこに公園を作ることを決断します。イサムさんは服部に恩義を感じてたんでしょうね。我々の社屋が竣工間近になったときに彫刻をプレゼントしてくれて、新社屋中央の吹き抜けに設置することになりました。彫刻は、蹲(つくばい)をモチーフにした石の作品で「オンファロス」という名前です。中央に穿った穴から水が湧き出て、石の表面を伝って水槽に滴り落ちます。イサムさんの作品の中でも格別のものだと思います。毎日見て飽きない。オンファロスはその後、服部さんが寄贈して、モエレ沼の光のピラミッド内に移設されました。今では誰でも鑑賞できます。
イサムノグチさんはどんな方でしたか。
83、4歳だったのですが、はつらつとしていてお元気で、好奇心旺盛な方でした。先生を登別にお連れして露天風呂に入ったときに、こうやったら体が浮くよと言って脚を持ち上げたりして無邪気なところがありましたね。最後にお会いしたのは亡くなる年の誕生日となった1988年の11月17日です。四国の牟礼のアトリエで誕生会があり、僕はお祝いの花束を持って訪問しました。先生は人が来るたびにモエレ沼公園の模型を見せて熱心に説明していました。いつできるんですかと訪問客が聞くと、イサムさんは10年くらい先と答えるのですが、イサムさんの年齢のことを思って皆さんそこで言葉を失ってしまうんです。でも三宅一生さんだけは即座に、皆で見に行かなければならないですねと仰るんです。優しい人だなと思いました。そう言えば、我々が頂いたオンファロスは表面に水を流すため藻が発生してしまうので、どうしましょうとご相談したところイサムさんはそのまま清掃しないようにと仰ってました。また、最初にお目に掛かったときには、アートは「時の変わり」を表現すると仰っていました。日本語がお得意ではなくて独特の言い方だったので印象に残っています。どれもつながっていますよね。
安田先生とはイサムさんのつながりで知り合ったのですか?
はい。イサムさんが亡くなった翌年に札幌で偲ぶ会があってゆかりの方が集まりました。そのとき初めてお目に掛かりました。場所は円山のN43だったと思います。宮脇愛子さんは誰が送るの?と安田先生が仰ったんで私が芸術の森にお連れした後、空港までお送りしますと申したのが最初です。
北海道には「モエレ沼公園」「アルテピアッツァ美唄」二つの施設がありますが?
イサムさんは北海道を気に入った様子で、「人がいい」と仰ってました。人のおおらかさとか優しさのことを仰っていたのだと思います。
イサムさんの壮大でオープンな作品を受け入れる受容力を、北海道の人が持っていることを直感されていたんじゃないですかね。アルテピアッツァ美唄では、彫刻がどれも、いかにも無防備にそこに置かれています。彫刻が「俺ここにいることにしたから」と言っているように思えます。その土地に降臨してきたような作品だというところが、モエレ沼公園とアルテピアッツア美唄の共通点だと思います。どちらも北海道の最重要のアートの拠点です。それだけのために旅をしてもいい場所です。北海道の心象風景を現実に風景化した存在なんじゃないでしょうか。
イサムさんの壮大でオープンな作品を受け入れる受容力を、北海道の人が持っていることを直感されていたんじゃないですかね。アルテピアッツァ美唄では、彫刻がどれも、いかにも無防備にそこに置かれています。彫刻が「俺ここにいることにしたから」と言っているように思えます。その土地に降臨してきたような作品だというところが、モエレ沼公園とアルテピアッツア美唄の共通点だと思います。どちらも北海道の最重要のアートの拠点です。それだけのために旅をしてもいい場所です。北海道の心象風景を現実に風景化した存在なんじゃないでしょうか。