アルテ便り

2003年3月16日

 ガラガラガラ…。静かに、おそるおそる引き戸が開く音。と同時にそれまでの躊躇やためらいを忘れて「いやぁっ! 懐かしっ! ちょっと。あらぁっ!」よくとおる声。事務室から出てゆくと、声の主は開け放たれた引き戸の向こうにチョコンと立ち、白い息を吐きながら「見せてもらってもいいんだろうか?」「ええ、勿論です。どうぞ、どうぞ」「ちょっとぉっ! 見せてもらえるんだと、ホレ、おいで、おいで。はい、ごめんください」
 「懐かしいねぇ! おばさんね盤の沢に住んでたんだわ。今ホレ、栄町のこの学校のこと、たいした良くなったからって新聞とかにいっぱい載るしょ。それで、1回来てみたかったの。子供らもみんな、この学校卒業したんだよ。いやぁ、すばらしいね。おにぎり握って今日、来た甲斐あったわ!」 
 アルテピアッツァよりも、更に奥へ徒歩10分の界隈にかつて住んでいたという70代のおばあちゃんが2人、町側から歩いて20分ほどの道のりを十数年ぶりにやって来たと言う。「ほうれっ、名札も残ってるよ。ほんっと、懐かしいね。来て良かったね。とにかく1回来てみたかったの。もう、いつ死んでもイイね」何度も何度もそんなことを言いながら、あっちこっち見て歩き、時折見せる屈託のない笑顔のなかで瞳だけが濡れている。
 おばあちゃんたちが去ったあとのギャラリーに静けさが戻る。あの頃、暮らしの隣にいつもどっしりと存在したであろう学校を、自分が子育てに奮闘していた若き日を懐かしむように見つめていた2人。この建物が刻んできた時間とおばあちゃんの歩んできた時間が、ぴったりと重なり合ったひととき。
また今日も、素敵な出合い。

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